恋人のような

あおさの実家は、父がある木の建物の美しいたたずまいに感動し、
「いつかこんな美しい柱の立ち並ぶ家を建てよう。」
そんな思いがかたちになってできた家です。

建てているときの大工さんが幸せそうに働く姿、木の香り、
柱が立ち並ぶ清清しい空間で食事をした棟上げ式のこと
今も記憶に残っています。

どうやったらこの家を残せるだろう、
あおさは長い間ずっと思いを巡らせて、
家から離れても心の片隅に無意識にいつもこの思いがありました。

先日、20年ぶりの旧友に道でばったり会い、
一緒に歩けるほんの2、3分の間に友人が話してくれたのは
「お前の家を建ててるときのさ、木の香り、今も強烈に覚えてるよ。きっと忘れられない。」と、実家のことでした。
この家が大好きなわたしには何より嬉しい言葉。

この話を母にすると、嬉しそうに
「そういえばね、近所の方がお嬢さんの家を建てるときに、うちの大工さんを指名して、うちのような家を建てて欲しいと頼んだんだって。家が出来た時に見に来てくれたから、覚えていてくれたんだね。近くに建つのよー。」と。
母からの話を聞いた時、自分が一瞬で何かから解き放たれていく、
軽くなる感覚がありました。

「このままのかたちで留めておきたい。変わらないでほしい。」
ずっと持っていたそんな頑なな気持ちの結び目がほどけていくようでした。

この木の家の美しさはみんなの心に響いて、
その響きがまたかたちになってあらわれていくんだな。

そうやってリレーをしながら続いていく。
そうやってリレーをするから続いていく。

かたちを変えて響き続ける。

家が前とは違って見えます。
今も好き、でも前の“好き”とは違って
その家の呼吸がただいとしい。

あおさ