人間の人生はよくできていると思う。
赤ちゃんは、昨日まで出来なかった事が、今日は出来るようになる。
日々、成長し喜びをもたらせてくれる。
年老いてくると、反対に昨日まで出来ていた事が出来なくなってくる。
でも、それは、悲しみをもたらすのではなく、旅立ちの前の、その人の生き方を教えてくれる、大切な時間なのだと思う。
84歳のみちさんは、あったことはすぐ忘れてしまうし、 ひざが悪くて歩けないし、すべてに介助が必要だった。
普通だったら面倒な患者さん。
ところが、彼女は病院の看護師さんたちから人気があった。
「みちさんのそばにいると癒されるんです。」
どんな状況のときも、叫ばずに、看護師さんに微笑んでいた。
何かしてもらうと、必ず「ありがとう。」と言っていたらしい。
ある看護師さんが、私に話してくれた。
「同じフロアーの看護師さんたちが、疲れたときや帰るときに、必ず、みちさんに挨拶に来るんですよ。
みちさんが微笑んでくれると嫌なことも忘れてしまうと言うんです。」
元気だったときから天使だったわけではない。
体が動かなくなって、すぐに忘れてしまうようになって、みちさんの持っている本来の素直な心が、人を癒したのかな。
看護師さんの優しさとみちさんの優しさで車椅子だったみちさんが、杖をついて歩けるようになった。
人の優しさが集まると奇跡がおこるんだね。
3年前に天に召されたが、素敵な思い出は、今も心に残っている。
紫音